ゆがんだ愛だらけ【殺戮にいたる病】

読書
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叙述(じょじゅつ)トリック・・・推理小説の手法の一つ。文章の記述上の仕掛けによって、読者をわざと誤認に導くもの。(goo辞書より)

最後のどんでん返し系で必ずと言っていいほどおすすめに挙がる小説【殺戮にいたる病】

いつものごとくあまりあらすじとか作者さんとか調べずタイトルと「どんでん返しがすごい!」という情報だけで読んでしまいました。

これ・・・かなりグロい。(もうね、血がピャーとかそんなレベルではないです。表現が生々しいから内臓とか苦手で想像力が豊かな人は読むの本当にしんどいと思います。)そしてエロい。性犯罪のお話なので性表現がまた生々しくてしんどいです。
最初の殺人はグロさよりもエロが強かったので「官能小説ってこんな感じなのかな」って思いました。

でもたびたびおすすめに挙がるだけあって、最後本当にびっくりします!
そしてしんどい表現ばかりのこの作品を2度以上読まずにはいられない!そんなすごい作品でした。

こんな方にはおすすめしません

・エロい表現に抵抗のある方(特に性犯罪系がダメな方)

・解剖系のグロい表現が苦手な方

・気持ちが不安定な方

個人的には追加で「子育てに悩んでいる息子のいるお母さん」にもあまりおすすめしません。
私自身これ読んで鬱々としちゃいました・・・。

作品紹介

著者 我孫子武丸(あびこたけまる)

1992年発行

文庫版316ページ

ジャンル ミステリー

作者

作者は我孫子 武丸(あびこ たけまる)さんです。

1962年兵庫県生まれの小説家さんです。

1989年【8の殺人】でデビュー。その後【弥勒の掌】【探偵映画】など著書多数。

このお名前を見て「どっかで見たことある名前だな・・・」と思ったのですが、子供の頃ゲームでかなりお世話になった方でした。

スーパーファミコンのサウンドノベルゲーム(小説を読み進めていくスタイルのゲーム。話の途中で現れる分岐をプレイヤーが選択することでストーリーが変化し、エンディングも変わっていく。)【かまいたちの夜】の脚本を担当された方でした。

このゲーム当時人気で(今も人気みたいです)、結構やりこんでいたんです。
エンディングで必ず我孫子さんの名前が出ていたのでクリアごとに何度も目にしていました。

私と同じように【かまいたちの夜】を何度もプレイした同年代の方も多いのではないでしょうか?

そんな我孫子武丸さんの代表作がこの【殺戮にいたる病】です。

あらすじ

永遠の愛をつかみたいと男は願ったー

東京の繁華街で次々と猟奇殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。

犯人の名前は、蒲生稔!

くり返される凌辱の果ての惨殺。

冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。

(講談社文庫 あらすじより)

自分の言葉であらすじを書いてしまうと作品の驚き要素とか大切な部分をポロっと書いてしまうかもしれないと思ったので、文庫本に書かれていたあらすじを引用させていただきました。(手抜きじゃないよ)

本編感想(ラストに関わる重大なネタバレあり)

この作品は冒頭から犯人の名前が明かされています。

というか最初の章が『エピローグ』から始まります。

え?普通物語の掴みって『プロローグ』じゃなかったっけ?とそこからすでにトリックにはまっているという、ものすごい作品でした。

ここからは物語の核に関わるネタバレを含んだ感想・解説になりますので、未読の方・ネタバレを避けたい方はスルーしてください。

↓  ↓  ↓

今作は作品のスタイルから登場人物すら簡単に紹介できません。

登場人物を最初に紹介しちゃうとこの作品の肝となるトリックが効果的に発揮できないので。
・・・ってその手法を思いつく作者さんすごすぎる。

本編は犯人の稔、雅子、樋口目線で進んでいくんですが、物語の時系列も主体となる人物にあわせて進むので行ったり来たりします。

時系列をわかりやすくまとめると

前年10月・・・稔最初の殺人(江藤佐智子)。

1月・・・1/4稔第二の殺人(えりか)。体の一部を持ち帰るようになる。

2月・・・2/3、稔第三の殺人(島木敏子)。ビデオ撮影する。
雅子、息子が殺人犯なんじゃないかと疑い始める。2/4深夜、息子の部屋から袋発見。
樋口、2/3島木敏子が訪問。2/4午後第三の殺人(島木敏子)の件で野本警部が訪問。後日島木家訪問。かおると知り合う。

3月・・・3/3稔第四の殺人(田所真樹)。敏子らしき人物を六本木で発見、3/19庭の袋を掘り起こすも足りない。
3/3真一帰らず。3/10自室で8ミリを観ている。日付変わって3/11深夜庭から袋を回収。
雅子、3/10自宅に警察が来る。3/11午後、庭の袋に気付く。
樋口、かおる・斎藤と犯人捜し開始。

3/28・・・クライマックス

こんな感じです。

ここで疑問が

・真一はいつ稔の犯行に気が付いたのか
稔が2/3殺人からの午後11時過ぎ帰宅。2/3日付変わって2/4の午前2時真一帰宅。翌日には部屋から袋が見つかっているのですでに気が付いています。気づくの早くない?

・稔は何故江藤佐智子に惹かれたのか
物語後半に幼いころの自分に似ていたとか母がとか記載はありましたが、結婚して20数年、その間とかそれまでの人生で1人も似たような人に出会わなかったの?
というかなんで妻と結婚したの?

・雅子はなんで警察が自宅に来た時に一度だけ夫のことを「稔」呼びしたの?
大学名に違和感を覚えた時に「あの警官は、稔の大学名を見て」とありましたが、なぜ「夫の大学名を見て」と思わなかったのか(コレは物語のトリックのためにしょうがないとは思いますが・・・)

などなどいくつかの疑問はありましたが、読み返すとたしかにこれは息子のことじゃないわ!となるちょっとした違和感が随所にあるのにそれを違和感に思わせない自然な話の流れにすっかり騙されました。
(違和感を挙げるなら2/3の稔帰宅時に母が「ずいぶん遅かったのね」みたいに言ってますが、雅子パートでは「息子が深夜にこっそり帰ってきた」というような記載があったり。)

上記の疑問も3回読んでやっと思ったくらいでした。それくらい自然な流れでストーリーが進んでいきます。

そんなこんなでラストの雅子の一言ですべてが明かされて読者は「マジかー!そうだったのかー!!」となるのですが、そこまでのミスリードというかいわゆる叙述トリックがすごい!(叙述トリックという言葉覚えたてなので使いたくて仕方ない人)

たしかに真実を知ってから2回目を読んでみると稔は息子じゃないことがわかるんです。

稔パートで切り取った被害者の身体を袋に入れて庭に埋めているのに雅子パートで息子の部屋のゴミ箱でその袋を発見していたり、息子は大学生のはずなのにやけに大金もってたり、10代の女の子にオジサンとか言われちゃってたり。

ヒントはそこかしこにちゃんとあるのに、読者は稔=大学生の息子と思い込まされているので「10代から見たら20代の大学生はオジサンかー」とか雅子が「たくさんお小遣いあげてるからお金あるのかー」とかとくに疑問を抱くことなくサラッと読み進めてしまいます。

とにかく母親である雅子が息子を疑い続けるので、こちらも雅子目線で息子=犯人=最初に逮捕された【稔】と勘違いしてしまうんですよね。

ここに犯人逮捕のエピローグを最初に持ってきた作者さんのすごさがまたわかります。

というかこれは誰に騙されたって言えば、雅子に騙されたってやつですよ。雅子め。

雅子パートを読むとたしかに息子を名前で呼ばず「あの子」呼ばわり。愛ちゃんは名前で何度か呼んだりしてるのに息子は一切名前を出していないんですよね。そこに違和感を抱かせないの上手すぎる。

そんなこんなで登場人物をまとめると

蒲生ハテナ・・・稔の父。5年前に他界。

蒲生容子・・・稔の母。65歳。蒲生家で同居中。

蒲生稔・・・父親。43歳。東洋文化大学勤務。

蒲生雅子・・・稔の妻。真一を殺人犯と疑う。

蒲生真一・・・長男。大学生。雅子に疑われている。父親の犯行にいち早く気付く。

蒲生愛・・・長女。グラタンが食べたくなっちゃう系女子大生。

樋口・・・妻の美絵を半年前に乳がんで亡くす。元警部。

島木敏子・・・美絵の看護婦(現在では看護師ですが、本文に合わせて看護婦とします)。ひそかに樋口に惹かれていた。離婚経験あり。

島木かおる・・・敏子の妹。姉の敏子によく似ている。

斎藤・・・記者

野本・・・警部

ざっくりこんな感じです。
殺されちゃった女性たちは省略しました。

これは物語を読み終わった最後の最後に知る情報ですね~。

この作品、絶対に実写化は不可能だと思います。

稔の顔が出ない文章だからこそのトリックだし、殺され方とか内容がR18でもきつすぎるので、もし万が一実写化しても私個人は観れないかな・・・。

感想としてはとにかく登場人物が病みすぎの印象を持ちました。

雅子は過干渉突き抜けてるし、樋口は自分責めすぎだし、かおるは人の物ばっか欲しがるし、稔は・・・稔・・・犯罪者の気持ちは理解しがたいですが、幼少期に悲しい気持ちになったんだね、とにかくマザコンが過ぎるって感じで(薄い感想)。

マザコンの稔、子どもへの歪んだ愛情を注ぐ雅子。父親を求めて樋口に惹かれる敏子、敏子の惹かれるものに惹かれるかおる・・・そして本当の愛って結局何なんでしょうね~。

雅子あんなお母さんなのに愛ちゃんも真一君もいい子そうに育っていることがビックリでした。
でも単身親父を止めに行く真一君、正義感はすごいけど警察か家族に相談って考えはなかったんかい?

愛ちゃんは特にそこらの女子大生らしくグラタンなんか作っちゃったりして、家族思いみたいだし癒しでしたね。
愛ちゃん登場シーンのみアットホーム小説でした。

この事件の後、雅子&愛ちゃん家族に幸あれですわ。

まとめ

最後まで読むのがここまでしんどい作品ってなかなかないです。
(そんなに本読んだことないけど)

とにかく犯行の描写が生々しすぎる!

性描写が生々しすぎる!

ということで読中読後そして思い出すだけで胃がキューっとなりました。

これは【殺戮にいたる病ダイエット】ができるんでないか?というほどには食欲なくなります。

それと同時にかなり病みます。

なのに最後の驚きのあまり3回も読んでしまいました。すごい作品です。

すごい面白い作品だけど、人にはあまりお勧めできないという葛藤が生まれます。

ぜひ、一読していただいてこの葛藤を味わってみてください!
この作品面白いから読んでみなよ~って勧めたら次から普通に接してもらえるかな~てね。

ちなみに作中に何度も出てくる岡村孝子さんの「夢をあきらめないで」は現実にある名曲です。

作中では歌詞が文章で書かれていたので何の歌なのかピンとこなかったのですが、読み終わった後に皿を洗いながら無意識に口ずさんでいました。

「あーなたぁーのーゆーめを~あぁーきらぁめーなぁーいでぇ~」って・・・

あ、この歌だ・・・って気が付いた時にゾクっとしてしまいました。

この作品によって私の中で「夢をあきらめないで」は、名曲なのにもはや心霊ソング並みの怖い歌になってしまいました。
これ聴きながら犯行していたとか怖すぎだもの。

でもさ、そんなサイコな犯罪者って本当にいるんだよね~・・・知らない人にすぐついていくのはやめましょう。

あと、あまり我が子に干渉するのも気を付けないとなって思いました。

いつまでも子供じゃないからね。うん、気になるけど個人を尊重してあげよう・・・うん・・・

ということで、今作のまとめ

・知らない人についていかない

・飲みすぎない

・子どもに干渉しすぎない

・人のものばかり欲しがらない

そして

・我が子が犯罪者にならないといいな

って感じでした!
(薄っぺらいまとめ。)

プロフィール
この記事を書いた人
あびう

男児二人育児中のアラフォー主婦
寝ること、食べることが大好き
面倒くさがり、のんびり屋ながら何かに挑戦しようとブログを開始

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