聴く読書、【オーディブル】で【流浪の月】という本を読んだのでご紹介します。
※小説本編に虐待、DV、性的な表現が含まれています。
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作者 凪良(なぎら)ゆう
2019年出版(2022年文庫版刊行)
2020年本屋大賞受賞
ジャンル 小説
(オーディブルではミステリーとジャンル分けされていましたが、個人的には社会派ヒューマンドラマかなぁと思いました)
ページ数 356ページ
オーディブル再生時間 10時間22分
ナレーター 土師 亜文(はし あふみ)
著者
作品の著者凪良ゆうさんは滋賀県出身の小説家で、主に恋愛・BL(ボーイズラブ)のジャンルを手掛ける。
代表作に2020年『流浪の月』(第17回本屋大賞受賞)、2023年『汝、星のごとく』(第20回本屋大賞、第10回高校生直木賞受賞)がある。
あらすじ
両親をなくして叔母に引き取られた少女【更紗(さらさ)】。
とある事情から家に帰りたくなくて雨の中公園のベンチで一人本を読んでいるところに、いつも同級生が「ロリコン」と呼んでいた不審な青年【文(ふみ)】が声をかけてくる。
そこから自由に育てられた更紗と規則に縛られて育てられた文の奇妙で幸せな共同生活が始まった。
しかし世間は更紗の失踪を誘拐事件と報道する。
【事実】は彼らの知っている【真実】とは全く違ったものなのに誰もそれを理解してくれない。
それは本当に誘拐だったのか。彼は悪人なのか。
登場人物
家内更紗(かないさらさ)・・・本作の主人公。小学生。父親が他界後、母親が家を出て行ってしまったため母方の叔母の家で生活することになる。
家内湊(かないみなと)・・・更紗の父親。公務員。公務員という仕事柄好き勝手はできないが、規律を重んじない性格。妻と娘が大好き。
家内あかり・・・更紗の母親。自由奔放な専業主婦。その自由さから世間に「浮世離れしている」とささやかれている。ママ友がいないが本人は全く気にしていない。夫が大好き。
佐伯文(さえきふみ)・・・本作のもう1人の主人公。19歳。毎日公園のベンチから遊んでいる女子小学生を眺めていたことから彼女らに「ロリコン」と不審がられている。両親と兄がいるが、今は一人暮らし。
孝弘(たかひろ)・・・更紗が預けられた叔母の家の長男。更紗とはいとこにあたる。中二。
亮(りょう)・・・更紗の恋人。会社員。実家は農家でおばあちゃん子。
安西(あんざい)・・・更紗のアルバイト仲間。シングルマザーで娘がいる。
梨花(りか)・・・安西の娘。小学生。表面的には明るくてしっかりしている。
阿方(あがた)・・・文の働くカフェのビルのオーナー。老人。1階でアンティークショップを経営している。
谷(たに)・・・文の恋人。
感想【ネタバレあり】
ナレーターの女性がとても上手くて子ども更紗は子どもらしく、大人更紗は大人っぽく、文はイケメンであることがスッと想像できました。
口コミでは「アニメ声」とありましたが、あまり私は気にならなかったです。
以下かなり本編のネタバレを含んだ感想(最後の場面も含む)となりますので、未読の方はスルーしていただくかご理解いただいた上で進んでください。
↓ ↓ ↓
最初犯罪者と被害者の恋愛ものかと思ったのですが、この話ってもっと重い、すごく社会的なテーマが含まれているんだなって思いました。
テーマ1
この物語のテーマのひとつは話の中の一文にもある『事実なんてない。それぞれに解釈があるだけだ』ということだと思います。
世間は文(ふみ)が更紗(さらさ)を誘拐した小児性愛の誘拐犯であると凶弾したけれど、真実は更紗が叔母の家で中二の長男に日常的に性被害をされていて家に帰りたくないがゆえに救いを求めて文の家に自ら行った。
ということなのですが、警察に保護された時にそれを伝えることができたら世間の2人を見る目は全く違ったものになっていたはずなのに・・・と更紗も15年間後悔し続けます。
でも再会した時に文は「そんな辛いこと言えなくて仕方がない」と理解を示すのですが、これもし文が警察に捕まった時に事情を警察に説明してあげていたら誤解もなくなるし更紗を救うことができたんじゃないかな?と思いました。
警察に保護されて結局叔母の家に戻された更紗は同じ目に合うのは明白ですし。
人の秘密をしゃべるような人ではないとも書かれていたけれど、そこは更紗を守るために言ってほしかったなぁ。
更紗も文について行ったから良かったものの、本物のロリコンで犯罪者だったらどうすんねん!と思ったのですが、この時の更紗も文も自分がどうなってもいいくらいの精神状態だったんでしょうね。つらい。
そんな2人の事情は2人にしかわからないけれど、表面的な事実だけをすくい取って報道やネットをみた『その他の人たち』は更紗は被害者、文は加害者として2人を見ることになります。
更紗はかわいそうだから守らなければならない、文は気持ち悪いこの社会に存在してはいけないとそれぞれに分類して家庭環境や生い立ちを調べては勝手な人間像を作り上げていく・・・
これは実社会でもまさに起きている事なんですよね。
今まで見てきたニュースの犯人や被害者がどんな人間だったのか、どうしてその犯罪を犯してしまったのか、真実は何も知らない。というかその話は全て本当なのか。
私たちは本当のことは何も知らないのに勝手な善意で被害者をかわいそうと感じ、加害者に嫌悪感を抱いているんですよね。
でもその中には必ず本人たちにしかしらない真実があって、知らない部外者がそれぞれの解釈でどうのこうのいう物ではないんですよね。
2ちゃんねる創設者のひろゆきさんのよく使われる言葉の一つに「それってあなたの感想ですよね?」なんて相手をあおるものがあるのですが、この言葉ってすごく重いものなんだなと思いました。
そう、個人の感想であって本当のことは当事者にしかわからない。
でも本当の被害者は確かに存在する。
部外者である私たちは報道されるニュースを見て何ができるのか、何を思えばいいのか。
当事者である本人たちが助けを求めたり相談してきたりしない限りできることなんて何もないのかもしれません。
自分からすることなんて「大丈夫ですか?」と声をかけることくらいなのかも。
『勝手な想像』ほど相手に迷惑なものはないですね。
というか、更紗自身も文に秘密を打ち明けられるまでは文をロリコンだと決めつけて接していたので結局『当人しか本当のことはわからない』という事なんですよね。
話を戻しますが、真実を知っている2人だからこそ、言える時にすべてを警察や世間に話して誤解をなくしてほしかったと思ってしまいます。
テーマ2
この話って『母親』もテーマになっていると思います。
更紗も亮くんもリカちゃんも母親の奔放さに振り回されて、文もルールブックしか信じなかった母親に苦しめられています。
どの母親も子どもと向き合っていたら結果は大きく変わっていただろうに見事に極端な母親ぞろいです。
世間一般ではこんなに子どもを置いて男と出ていくお母さんが多いのかなぁ?
それでなければ育児書にならいすぎて厳しいとか。
そして父親はほとんど話に関わってこないのはなぜなんだろう。
更紗は父親が他界、リカちゃんは安西さんがDVを受けて離婚しているからストーリーで語りにくいのはわかるけど、
亮くんの場合は父親がDVで母親が出ていったのに『俺を置いて出ていった母親』を恨みはするけど『母親に暴力をふるった父親を憎む描写』がないのはなぜなんだろう。自分もそうなってしまったのは父親のせいだと思わないのかなぁ?
文の父親はこっそり遊び心を教える人ではなかったんだろうか?母親の言いなり?
父親と信頼関係を持てたら病気の話も相談できたのに・・・
なんなら叔母も息子の孝弘の犯罪行為に全く気付くどころか知ってからも咎めることもないし。そして認めようとしないし。
叔母も息子と向き合うことがなく、叔母の家庭もどこか歪んでいたのかもしれません。
自分の子どもの気持ちを大切にすることの重要性を考えると共に、やっぱり子どもの精神的成長は母親が大部分を占めるのか?とやや気が重くなりました。
でもお父ちゃん、フォーロー頼むよ。
とにかく思ったこと
この物語って悪人っていう悪人として認識できるのは叔母の長男、孝弘(たかひろ)だけだと思います。
みんな誰かしら心に傷を持っていて、自分ではどうしようもないそれを抱えて悩んでもがいている。
孝弘にも何かしらの事情があるような記述があればまた話は違ったんですが、こいつがすべての発端だと言わざるをえないです。
ん?これがテーマ1でお話した部外者の勝手な感想なんでしょうか・・・難しいな。
亮くんは「どうしていつもこうなっちゃうんだろう」とか言ってないでカウンセリング行ってこい!
このままじゃ被害者増えるから。
更紗はストーカーしまくりで中盤引きました。
職場にシフト確認とかカフェまでついてくるとかやってる亮君のことに文句言えないよ・・・
しかも亮君は婚約者の浮気を疑っての行動なのに対して更紗は文に恋人がいるって知ってからの行動だから谷さんの不安は尋常じゃなかったと思います。
店長はザ・コンプライアンスってレベルの優しさだけど、職場の女性軍はみんな癖強すぎでめんどくさすぎなので働きやすいかと言ったらこの店しんどいなと思いました。
でもあの首ツッコんでくる感じが社会そのものなんだろうな。
文は育児書を徹底的に信じた母に育てられたのでピザも食べたことなければ食べ物はすべて手作りだったというようなことが説明でありましたが、家にアイス(しかもチョコとバニラの2種類)があったのはなぜなんだろう?
自由を獲得してせめてもの反抗で買ってみたのかなぁ?それともアイスはアリの家庭だったのかも?
かなり個人的な感情で言うと、谷さんがこの話の中で一番まともで大人な人物だと思います。
あんなにコケにされて感情的にもならず冷静に別れを告げられるとか聖人すぎやで。
安西さんは登場当初から苦手タイプなので出てくるたびにイラっとしてしまいましたね~。
ぐいぐい相手のテリトリーに入ってきては「絶対別れるべきじゃないよ~」とか事情も知らないで勝手なこと言っておせっかいだし、そもそも子ども押し付けて男と旅行している時点で私的にアウトです。
子どもを置いて出ていった点は同じとは言え、夫が生きていたら更紗もずっと大切にしていたであろう更紗の母親より断然タチが悪そうです。
とにかく作品に出てくるほとんどの人たちは『相手を思って』『良かれと思って』親切心で行動していたり発言しているんですよね。孝弘、君はダメだ。
でもそのどれもが何も知らない部外者が想像だけでやっている『おせっかい』であって、実際は本人を困らせています。
ただの野次馬は論外ですが、相手を思ったやさしさってなんだろう?と考えさせられました。
そして更紗と文の関係は個人的には共依存であって健康的な関係ではないと思います。
なのでハッピーエンドでよかったね!と手放しでは喜べません。
むしろこの話は何も解決はしていないし、そもそも何も解決しないのかもしれません。
でも、なぜか最後は特に文よかったねと言いたくなるような、2人の、そしてリカちゃんの、谷さんの、亮君の幸せを願わずにいられなくなるようなお話でした。
私的にはこの話の主人公は文で、彼の気持ちが救われるまでのお話なんだと思いました。
まとめ
流浪の月、話の内容は重いのになぜか暗くなりすぎない、おもしろいとか悲しいとかとは違う不思議な感覚で夢中で一気に聴き終わってしまいました。
内容は乱暴にまとめると『当事者しか知らないことを部外者が勝手に解釈して口出しするな』という事がメインだと思いますが、それだけじゃなくて『人は何かしら他人に触れてもらいたくない自分だけの何かを抱えている』ということも言いたかったのかもしれないですね。
真実とは、事実とは・・・ネットで情報があふれている現代だからこそ改めて考えてみる必要があると再認識させてくれる一冊でした。
そして映画『トゥルーロマンス』をまだ観たことない人にはこの作品は特にご注意ください。
映画のラストや途中のシーンについての記述が含まれているので、まずは映画『トゥルーロマンス』を観てから読むと更紗の話に没入できると思います。
(私は映画の名前もきいたことなかったので未視聴でこの小説を読んでしまったのですが、逆に興味が沸いたので機会があれば『トゥルーロマンス』、観てみようと思います。ラストは知っちゃっちゃけど・・・)
あ、ちなみに『カータブル』とはフランス版ランドセルのような通学鞄のことで、やわらかい生地で横長のリュックのことです。
↓こんなイメージです。
これの空色かぁ・・・かわいいですね!