12人の男たちが密室で1時間半話し合うだけなのに複雑すぎる名作【映画『12人の怒れる男』】

映画
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名作映画のタイトルを検索するとよく目にする作品、【12人の怒れる男】。
あらすじも誰が出ているのか、なんならいつの時代の映画かもまったく前知識無しで鑑賞したら「これは確かにおもしろいし、おすすめで挙げられるのもわかるな」と納得してしまったのでご紹介したいと思います。

この映画はこんな方におすすめ

心理的なやり取りが好きな方

人間観察の好きな方

ディスカッションについて学びたい方(この作品、会社の教材として扱われたりもしているみたいです)

名作と呼ばれている作品に興味のある方

ちなみに

きわどい大人の表現や、血が飛び散るようなシーンもワッ!と心臓の飛び出るようなシーンもありません。

作品情報

シドニー・ルメット監督

レジナルド・ローズ脚本

1957年4月公開

アメリカの映画

読み方は『じゅうににんのいかれるおとこ』で原題は『12 Angry Men』

上映時間96分

サスペンスドラマ

制作費約35万ドル(当時の円換算で約1憶2600万円)

製作日数約2週間

1957年度 第7回ベルリン国際映画祭金熊賞国際カトリック映画事務局賞受賞

この映画は1954年に製作された同題テレビドラマ、原案をリメイクしたもので、制作費約35万ドル(当時の円換算で約1憶2600万円)、製作日数約2週間という超低予算・短期間で製作されたそうです
(参考文献:Wikipedia)

かなり古い映画なので白黒です。名作『ローマの休日』をご存知の方ならあのイメージの白黒です。
(ローマの休日は1953年製作の映画だから当たり前か)

日本でも様々な劇団から舞台化していたり、シチュエーションをリメイクしたものがあるようです。
評判もとてもいいので気になります。

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あらすじ

父親を殺人したとして裁判にかけられた17歳の少年。
第一級殺人のため有罪になれば死刑が確定します。
この少年は有罪なのか、無罪なのか・・・12人の陪審員が評決を下すため議論に入ります。
評決の条件は12人全員が一致した結論を出すことですが、11人が有罪というなかで1人だけが無罪ではないかと主張し始めました。
この1人をなんとか説得して有罪として結論を出し早く議論を終わらせたい11人の陪審員。
しかし、無罪を主張する彼の話を聞くにつれ風向きが変わっていきます。

彼らの出す結論は有罪か、無罪か・・・?

登場人物

1番・・・中学校でフットボールのコーチを務めている。陪審員長として話をまとめる役

2番・・・銀行員

3番・・・メッセンジャー業

4番・・・株式仲買人

5番・・・工場の機械工

6番・・・塗装業

7番・・・セールスマン

8番・・・建築家

9番・・・12人の中で最年長の老人

10番・・・自動車修理会社経営

11番・・・時計職人

12番・・・広告代理店勤務

え?こんな紹介だけ?と思われるかもしれませんが、性格とか作品の内容にどのように関わるかとかは是非観てから判断していただきたいのであえて簡単にそれぞれの職業のみ紹介しました。

12人の陪審員である彼らが初対面で深く知り合うこともなく議論を開始したように、観ているこちらも議論に参加している気持ちで彼らの特徴や性格、主張を判断してみてください。

この映画は先入観をあまり持たずに観た方が各人のとらえ方も変わってきて面白いと思います。

感想【ネタバレあり】

いわゆる『サスペンス系法廷物』というジャンルに分けられている作品ですが、だれが真犯人なのか、検察と弁護士の舌戦、被害者遺族の悲痛な心情などは一切なく、ほぼ内容は1つの審議室で12人の成人男性が話し合う。という内容です。

これだけ聞くと「ナニソレつまんな!」と思う方もいるかと思いますが、一人一人の個性や心情の変化、彼らの生い立ちや家庭環境などが所々にチロチロっと出てきて、その上で議論が進んでいくところがとにかくおもしろい!

陪審員番号8番さんが無罪を主張したことで長い議論が始まるこの映画、次々と明かされる犯行の現場状況と新事実に観ているこちらも一緒に考えながら議論に参加しているような気分にさせられます。

たぶんこの映画のテーマは
・論理的議論の大切さ
・自分の意見を持て。
・差別や偏見を持つべきではない。
・陪審員制度の問題
・集団決定
などを総合して『客観的に判断して冷静に話し合うという事』なのかなと思ったのですが、

いやまてよ?

この映画、怖くない?

たった1人の無罪主張者。彼が語る論理的説明は確かに筋が通っているんです。
実演して見せたり説得力はすごいあるからわかります。

が、この1人が『それっぽい論理を主張』することで他の1人、また1人が「自分も無罪だと思う」と8番さんに同調していく。いや、説明に納得した上で意見を変えた人たちはわかります。

問題は『自分の信念もなくただ意見を変えた人がいたこと』。これが怖かったですね。

野球好きの7番さん、コロコロ意見を変える12番さんが意見を変えたところあたりで心の奥でゾッとした感じがしました。

「この怖い感じは何だろう?気のせいか?」と思ったのですが、最後の3番さんがみんなの無表情な視線に責められて「無罪だ・・・」と涙ながらにつぶやくあのシーンでのあのみんなの視線がすごくホラーに感じてしまいました。

確かに3番さんがいかに息子との関係という私情を絡ませて有罪を主張していたか、という話もあるとは思います。
しかし2年も会えていない息子。暴力を使って『男にしてやった』というような発言や、最後もドラ息子だと怒ってはいましたが、彼、ずっと財布に写真を入れて持ち歩いていたわけじゃないですか。
息子が憎くて息子と重ね合わせて容疑者の少年を有罪だから殺してしまえと意固地になっていたわけではないと思うんですよね。
彼も愛情表現が不器用すぎてうまくいかずさみしかったんじゃないかと胸が痛くなりました。
DVはもちろんいけないことなのは言うまでもありませんが。

とにかくそんな3番さんが最後、自分の息子と今話し合うべき相手の少年は切り離して考えなければならないんだと気づくまではいいんですが、その切り離した上で有罪か無罪かを考えることもなく無罪と意見を変えさせられて、大切なツーショットの写真を破いてしまうまで追いつめられてしまうあのシーンは彼の人生のすべてであり、ある意味支えであったものをすべて否定するような・・・言葉で表すのが難しいんですが、恐怖と共に悲しさを感じてしまいました。

これが『同調圧力』というものなのでしょうか。

そしてそのきっかけを作った無罪主張の最初の1人である8番さんの巧みな話術には一種の『洗脳』を思い出させられるのです。

今回のお話は「自分たちの判断に1人の少年の命がかかっている。疑問が残るのならそこに議論の余地はある」というようにきっかけを作ったわけですが、8番さん以外の陪審員たちのように自分に関係がない(自分の生活に全く影響がない)からと「早く終わらせよう、有罪でいいよ、有罪で。」というノリで決めてしまうのはいけないという感想を持つのは当然のことなのですが、もし、逆だったら・・・

他の11人が無罪を主張していたとしても8番の彼は何かしらの『やったかもしれない疑問点』を言葉巧みに並べて有罪の可能性をつきつけて、もしかしたら同じようにみんなを懐柔して有罪にしていたのかもしれません。

実際に10番さんの貧困層への差別意識には「偏見は持つべきではない」というようなことを彼は言うのですが、後半で「女性はメガネをかけるのが嫌いだ」と偏見を持っているんですよ。しかし、だれもそこにツッコまず「確かに・・・」と無罪だと心変わりした陪審員たちは彼の話を素直に受け入れている。
「え、私メガネ嫌いじゃないけど」・・・と語れる女性が同席していたら話は簡単に進まなかったかもしれません。

最初の老人が無罪と意見を変えた時の8番さんの笑みから始まり、1人、また1人と陪審員が彼の意見を受け入れる時8番さん少し笑顔になるんですよ。
それも『洗脳』の成功を確信したようで薄気味悪く感じました。

とにかく、この映画は民主主義とは、集団決定とは、差別・偏見とは、と観た人にたくさんの角度から問題を定義しているようで何度みてもきっとそのたびに考えが変わり、巡るすごい作品だと思いました。

そんな中で一度観ての感想で、私が一番印象に残ったのが前述の『他人をコントロールする怖さ』だったんです。

観始めて半分くらいまでは「感情的になっちゃダメだな~」とか「自分に関係ない人でもきっちり話し合わないとダメだよね」とか「人を生活環境でくくっちゃダメだよ」とか思いながら観ていたんですけど、最後の投票時には「こわ・・・」が頭を埋めてましたよ。

これ、無罪を主張している8番さんと有罪を主張する8番さんがやりあったらどうなっていたのかなってすごく興味があります。

少年は犯人だったかもしれないし、犯人ではなかったかもしれない。彼自身が言う通りそれは関係ないことですから。
そいういう意味では有罪を主張する陪審員さんにもっと感情を出さない論理的に話し合える人がいなかったのが残念だったなと思います。(4番さんが一番それっぽいんですけど、やっぱり8番さんに追い付けないものがある気がして)

この映画を観てふと『23分間の奇跡』という作品を思い出しました。
1981年にアメリカで出版された短編小説の表題作なのですが、やはり集団心理や洗脳などがテーマの作品です。
1991年に『世にも奇妙な物語』でドラマ化しているのでそちらで観たことある方もいらっしゃるかもしれません。
(私は世にもで知りました)
この映画と『23分間の奇跡』を観て似たような気持ちになった方いませんか??

また、この映画に登場する12人の男性の性格を自分や知人に当てはめてみるのも楽しかったです。

・自分の意見が一番正しいと信じ、自分の意見を主張するのみで他人の意見を聞き入れない人
・意固地で自分が間違っていることに気づいてもなかなか認められない人
・自分の興味のあること以外面倒なことは深く考えずさっさと終わらせたい人
・人当たりがいいお調子者だけど肝心なことは何にも考えてない人
・物事を冷静に分析する人
・自分の意見はあるのに自信が無くて主張ができない人
・人から指示されることに慣れすぎて自分の考えをそもそも持とうとしない人
・人をよく観察する人
・偏見や差別意識が強い人

12人分の性格を表すことはできませんでしたが、大まかにこんな人たちが登場しました。
上二つのパターンは大体大声でわめく特徴があるようです。

「あーこんな人いるいる!」と誰かに当てはめたり、「自分はこういうところがあるから良くないな・・・」と反面教師になったりして、それも面白かったです。

というか違和感なく最後まで登場人物の名前が全く出ないまま話が進んでいくのも、コレ、すごくないですか!?
番号で呼び合うわけでもなく、やりとりに不自然さがなかったので最後の最後で2人だけ名前が明かされて「あ!そういえば名前だれも出てなかったんだ!」と気づかされました。
後々になって考えてみれば「アメリカって最初に自己紹介とかしそうなイメージなんだけど、しないんだなぁ」と思ったり。
ましてや全員ビジネスパーソンだし余計自己紹介して握手とかしそうなもんなのに。

それも脚本家の技なんだろうなと思います。ホントスゴイ
評決以外にもそういった面白さがあって、本当にこの映画いろんな角度から楽しめます。

あぁ!これは見どころの一つとしてかなり強く推したいのですが、汗をかかないと話していた4番さんが自分の主張に矛盾を感じた時に初めて額に汗がにじみ出てくるところ!あのシーンを観てグッと引き込まれた人も多いんじゃないでしょうか。

ツッコみたいところは最期の3番さんに上着を着せてあげるところ。

シャツの腕まくったまま上着は袖がゴロゴロして気持ち悪いよ・・・

まとめ

いや~とにかくおもしろいというより『いくらでも考えられる映画』でした!

いろんな人におすすめしたくなるのすごくよくわかります。

で、観た人と色々語り合いたくなる作品でした。
その際はあくまで感情的にならずに理路整然と。

今回私は8番さんに注目した感想を一番に持ちましたが、次観たら全く別のことで大きな気づきがあるかもしれません。
『こんなこいるかな』みたいに友達とワイワイみて性格分析しながら観てもいいと思います。

切り口次第でいくらでも語れる正解のない映画だと思います。本当に色々な意味で複雑です。
なのに専門用語や小難しい話はあまり出てこないので理解しやすく、大人だけでなく年齢を問わず楽しめる作品だと思います。(小学生低学年までだと難しいか)

いつかまたこの作品をみて、今の自分とディベートできちゃうかもというくらい本当に色々な見方ができるすごい名作に出会えました。

シーンを思い出してはまた自分なりの解釈や疑問が湧き出て、この1記事が更新だらけで最終的にはレポートみたいに長文になって、1冊の本になっちゃうくらい面白い映画です。

簡単に一言ではまとめられないのですが、大切なことは

流されるな!と大きな声で怒鳴ったらダメ。

ここ守って生活していきたいです。

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プロフィール
この記事を書いた人
あびう

男児二人育児中のアラフォー主婦
寝ること、食べることが大好き
面倒くさがり、のんびり屋ながら何かに挑戦しようとブログを開始

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